そうだ。ルナは、あのときふたりが来ていなかったことを思い出した。

レイチェルたちが、キラとロイドだけ呼ばなかったということはないだろう。一回あっただけの、グレンとセルゲイまで招待したのだから。

リリザにいた時も、誘ったのに彼らは来なかった。ルナが最後にキラとロイドと会ったのは、結婚報告をしに、彼らが帰ってきたときだ。

いくら結婚の準備で忙しいからと言って、まったく会えなくなるほど忙しいのだろうか?

アズラエルは、たびたびロイドから電話をもらっていたようだったが、キラはぜんぜん電話を寄越さない。バーベキューパーティーの招待のために電話をしたのが最後で、そのときも、彼女にしてはらしくないくらい元気がなかった。

ルナがそのことを話すと、

「……じゃあさ、あたしらで、会いに行ってみる? あっちが来れないならさ。もしかしたら、マリッジ・ブルーかもしんないじゃん」

ミシェルが言った。

「そうだね。遊びに来てっていってたしね。行くか。あたし、来週の火曜日ならだいじょうぶ」

リサが、手帳代わりに使っている携帯を弄りながら、言った。

「おっけ。来週火曜ね。ルナはだいじょぶ?」

「うん!」

 

みんなで、キラの様子を見に行こう。

いったい、何があったのかは知らないが、どんなときでも元気いっぱいのキラが、元気がなかったのは気にかかる。

もしミシェルの言うとおりマリッジ・ブルーだったりするなら、ぱーっと気晴らしに女四人で遊びに行こう。お茶したり、買い物に行ったり。

船内のテーマパークとか、いってもいいかもしれない。

キラはそういうのが、一番元気が出るって言ってたから。

いくら結婚準備で忙しくても、一日くらい、いいだろう。

 

ルナがキラに電話をして、火曜日に行っていいか聞くことにした。それから二時間ほどたわいもない話をして、これから美容師の仲間と飲み会なのと言って、リサは帰った。

二人でリサを見送った後、「あのさルナ」ミシェルが腕時計で時間を確かめながら言った。

「今日さ、たぶん、クラウドのヤツ、ルナんちいると思うんだ」

「へ? そうなの?」

「うん。アズラエルになんか話あるとかって。結構長い話になるとか言ってた。だからさ、今日はうち来ない? うちっつったって、もとはクラウドとアズラエルの部屋だけどさ。仕事の話みたいだから邪魔できないし。さっき電話したら、まだ話終わってないって」

「そっかあ。じゃあ、ひさしぶりにふたりで夕ご飯だね!」

 「……リクエストあるんだけど、いい?」

 「いいよ。何食べたい?」

 「鮭のクリームパスタ食べたい! あとこのあいだ食った海鮮サラダとー、」

 「このあいだ?」

 「このあいだっつったって、あたしら四人で暮らしてた頃ね……、」

 ミシェルが、ふっと笑顔を消した。

 「ねえ、ルナ、あれ」

 「ん?」

 ミシェルに突かれ、ルナは後ろを振り向いた。リズンの外のテーブルには、ルナたちのほかにも二、三組、客がいた。

 その中に、イマリがいたのだ。しかも、たったひとりで。

 ずっといたのだろうか。今まで気づかなかった。

 「マジで、宇宙船に残ってたんだね」

 ミシェルは、ジュースの氷をストローでつつきながら言った。

 いつも一緒にいた仲間たちは、みんな宇宙船を降ろされたはずだ。イマリはひとりだった。ひとりで、ぼうっと遠くを眺めて座っている。なんだか、すごくやつれたような顔だった。髪もぼさぼさで、目つきもどこか危なげに見える。

 

 「ね、ルナ。……イマリもブレアも、なんで降ろされなかったんだろ」

 ルナは、じっとイマリを見るのは悪い気がして、ミシェルのほうを向いた。

 「……あたしは、ちゃんとしたことは分かんないけど、サルディオネさんのZOOカードに、あのふたりのカードが現れたからなのかな」

 「ああ! やっぱルナもそう思う? なんかそゆこと言ってたもんね。魂がカードに表れたらなんとか、」

 「うん」

 「さっきのナターシャの伝言もそんな感じじゃなかった? イマリのカードがどうだとか」

 「そうだね……。なんか変な感じ。あたし、ZOOカードの占いなんかできっこないのに」

 サルディオネは、ルナが奇妙な夢を見ることは知っている。椿の宿でも散々見た。サルディオネは、ルナの夢に二人が出てくると思って、あんな伝言を寄越したのだろうか。でも、あの夢は、ルナが見ようと思って見れる夢ではない。

それにさっきの伝言は、意味の分かる部分と分からない部分が半々だ。遊園地の夢はよく見るから、もしかしたらまた見るかもしれないが。

 

うさぎ・コンペってなんだろう?

 

 「あのさ、」ミシェルが言った。

 「サルディオネさんがさ、あたしのカードの意味、――「ガラスで遊ぶ子猫」っていうんだけど、その意味は、ルナと考えなっていったの」

 ルナはびっくりして、ぴょこんと顔を上げる。

 「ええ? あたしわかんないよ」

 「うん。でも、考えてよ一緒に。あたしもルナのカードの意味一緒に考えるからさ。ルナのカードはなんていうの? 聞いてるんでしょ?」

 「あ、あたしのカードはね、「月を眺める子ウサギ」」

 「うさぎね〜。ルナらしいっていうか。やっぱうさぎだよルナは」

 「そりゃうさぎは好きだけど」

 「……あ。イマリが帰る」

 ミシェルが言うので、ルナもまた思わず振り返ってしまう。イマリは、ルナたちには気づかず、のろのろと立ち上がり、まるで幽霊か何かのように力のない足取りで、去って行った。

 ミシェルは、「……なんかあの様子じゃ、宇宙船に残してもらっても、自分で降りちゃうかもしんないね」と言った。

 ルナもそうかもしれないとなんとなく思ったが、イマリに声をかける気になれずに、ただその姿を見送った。

 

 イマリにも、ブレアにも、確かにいい思いはない。相手だってそうだろうと思う。だから、声をかけたくもなかったけれど、あんなに消沈しているのを見ると、気の毒には思う。

 だけどいま声をかけても、拒絶されるだけであろうことは、ルナにもわかる。もしかしたら、ルナたちのせいで、と恨みに思われているかもしれない。

 だがルナは、すこしイマリのカードには興味がわいていた。

 なぜだろうか、ルナが知っている仲間のカードはネコ科が多い。ミシェルもリサもキラも猫。エレナやジュリもだ。ルナだけはなぜかうさぎ。周りがみんな猫ばかりなのに、ルナはウサギ。うさぎはルナ以外いないのだろうか。夢の中で黒ウサギを見たことがあるが、誰か分からない。

サルディオネの伝言によると、イマリのカードもうさぎらしいのだ。

 反抗的なうさぎ、というのが彼女らしい気もするが、ルナとしては、身近にあらわれたはじめてのうさぎ仲間なのだ。

 仲良くなれるかどうかは別として、ルナは、なんとなく、イマリのカードのウサギを、知りたいと思った。