「お前の頭ンなか、マジでどうなってるんだ?」

 「俺じゃなくてもミシェルならわかるよきっと。アズはさ、ルナちゃんの話をぜんぶ理解しようとするからくたびれるんだよ。アズは俺の話だって七割聞いてないだろ? それでいいんだ。三割聞いててくれれば。ルナちゃんの宇宙語はアズに理解できなくて当然。それを理解しようとするからおかしくなるのさ。俺と会話してる時の冗談だったら、マシュマロの意味わかるだろ」

 「……おまえはルゥのこと、理解してやれそうだな」

 「そんな焼きもちの目で睨むなよ。俺だってルナちゃんの理解は無理だ。混沌だもの彼女は。俺だって無理なんだから、知性が筋肉になってるアズには無理で当然」

 「その知性的な筋肉で締め上げてほしいのか」

 

 笑いもしない冗談でまとめた後、クラウドがボソッと言った。

 「ミシェルもね、昨日、おかしな夢見たみたいでさ……」

 新聞を眺めながら、濃いコーヒーを啜る。

 「最近、悩んでるみたいだったしね。夢の話なんて、可愛いもんじゃない。女の子達って、そういうふわふわした話、好きだろ? 男の俺たちには分からないこともあるよ」

 「おまえが、ミシェルのネタで聞き分けがいいっていうのも不気味だな……」

 「まアね。そりゃ俺だって、できればなんでも話してほしいよ」

 クラウドは新聞を畳んで、次の新聞へと手を伸ばした。アズラエルと話しながらも、クラウドは隅から隅まで読んでいる。コイツの頭の中身は、特別だ。アズラエルは眉を上げて、たくさんある新聞を一瞥した。

 

 「でもさ、このあいだのことで、ミシェルに怖い思いさせたのも事実だし。俺、別れるって言われなくてほんとうに良かったと思ってる。クラウドといるのは怖いから別れるって言われたらそれまでだしね……。それ考えたら、ルナちゃんと秘密の話ぐらい、可愛いもんさ。それでなくてもただでさえ、L18の男性は「嫉妬深さナンバーワン」に輝いてるんだから」

 「……なんだそれ」

 「ルナちゃんが読んでた、女の子向けのファッション誌にあったんだよ。嫉妬深いオトコは軍事惑星がナンバーワン。中でもL18はぶっちぎりだって」

 「マジかよ」

 「自覚なかったの……!?」

 俺だって、一応自覚してるのに。

典型的なL18男性である二人だったが、嫉妬深さでは極めつけのアズラエルが、自覚があまりないことに、クラウドは顎を外しかけたのだった。

「いや……別に自覚なかったわけじゃねえけどよ……」

アズラエルは、二人分のカップを片付けるために立ち上がった。新聞は、L系惑星群の政治情勢が載ったものと、軍事惑星のだけ、あとで読もう。

 

 「なあ、L03情報、なんかあったか?」

 「特にないね」

 「ってことは、L03の革命は、今ンとこ小康状態ってことか」

 「落ち着くも落ち着かないも、取材ができないらしいからね。いまだに封鎖は解かれてないし。だから、専門家のくだらない推測ばかり」

 クラウドは新聞を放り投げた。

 「軍事惑星のほうはどうだ」

 「こっちも大きな動きはないなあ。だけど、オトゥールと、マッケラン家のミラ大佐が、会合を続けてるのは確かだ」

 「ミラ大佐って――」

 「そう。……たしか、カレンの叔母に当たるんじゃない?」

 クラウドは、アズラエルの想像を読むように、言った。

 「今マッケランは、ミラ大佐が仕切ってるけど、本来の主には、姪を据えたいらしい。ミラ大佐がインタビューでそう言ってる。名前は出さないけど、」

 「姪ってのは、カレンだろうな……」

 「――たぶんね」

 クラウドは、話をそこで打ち切った。アズラエルが話を変えただけで、クラウドは話を変える気はなかったのだ。

 

 「アズ、とにかくね、ちゃんとルナちゃんの夢の話は聞いておいた方がいい」

 「あ?」

 「訳が分からなくても、バカバカしくてもね。また肝心な話を聞き損ねて、ルナちゃんの日記を盗み読みするわけ?」

 「もうしねえよ。あンときゃ特別だ。……おまえは、今朝のミシェルの夢とやらを聞いたのか」

 「ああ」

 クラウドは十三種類ある新聞に、すべて目を通した。最後の新聞を畳む。

 

 「聞いたよちゃんと。青いにゃんこの大冒険」

 「青いにゃんこだあ?」

 アズラエルは、理解できない、という風に首を振った。

 「収穫はあったよ。かなりね」

 「マジかよ」

 「新しい、ZOOカードと思われる名称が出てきた。“八つ頭の龍”。それから、もしかしたらエレナが、ミシェルと深い関わりがあるかもしれないってこと。それから、ルナちゃんの日記帳にあった、羽ばたきたい椋鳥が、少なくとも性別は分かった。男かもしれない。まだだれかはわからないけど」

 「――クラウド、おまえの脳みそ貸してくれ。三十分だけでいい」

 「アーズ、」

 クラウドはアズラエルを睨んだ。

 「ルナちゃんの話をちゃんと聞いてやれ。脳みそを貸すのはそれからだ」

 

 

 「――だからね、アズ、最近怒りっぽいの。ちゃんとあたしの話、聞いてくれないの」

 ルナが、ロイヤルミルクティーのカップを両手で持ち、ぷんぷんと拗ねて言った。

 「今日だってね、アズが話しろってゆったんだよ? なのにさ、現実的じゃないとかゆうの。夢なんか現実的じゃないってあたしだってわかってるよ! だからね、アズはマシュマロになったほうがいいの!!」

 ミシェルは爆笑した。

 「やだよ、あんなムキムキのマシュマロ!!」

 「ムキムキが少しぷよぷよすればいいんだよ! そしたらすこしかんがえも柔らかくなるよ!」

 ミシェルは腹を抱えて笑い転げる。

 「ヤ、ヤダそれ……! おデブのアズラエルなんて……!!」

 ちょっと、想像したくない。

 

 今日は薄曇りだったが、外でお茶ができないというほど寒くはない。リズンに直行したルナとミシェルは、外の席で、今朝の夢の話を熱心に喋りまくっていた。

 ミシェルは、一頻り爆笑した後、大好きなアイスコーヒーをストローでぐるぐるかき混ぜながら、呟いた。

 

 「あたしもさあ、あんな夢見るなんて。アリスの夢なんて久しぶりだよ。しかもあたし、青いにゃんこなの」

 ZOOカードにあった、あのイラストとおんなじ。ミシェルは言った。

 「八つ頭の龍って、誰だと思う?」

 「う〜ん、わっかんないなあ……」

 ミシェルは腕を組んで、宙を見上げた。「でさ、あの黒い猫はエレナさんだってクラウドは言うんだけど……」

 「うん。エレナさんは”色町の黒い猫“だよ」