「おばあちゃんから荷物!」

 「おう。届いたか」

 アズラエルは、荷物が届くのを知っていたような口ぶりだ。

 「アズ、おばあちゃんになにか頼んだの?」

 ふたりで電話したときは、なにか送ってくれと言った覚えはない。

 「ああ。開けてみようぜ」

 この荷物は、アズラエルが頼んだものか。

 「いつの間に!? あれからおばーちゃんに電話したの?」

 「おまえが、でかけてる間にな。こっそり」

 「なんでこっそり電話するのー! あたしもおばーちゃんと話したかったのに!」

 「お前、手紙書いたからいいだろ」

 「そうじゃないの! 顔見て話するのはまたべつなの!」

 「はいはい。悪かったよ。今度は一緒に電話しような」

 「そのかお、ぜんぜん悪いっておもってないよアズ!」

 アズラエルは、きゃいきゃいわめくルナから荷物を取り上げて、テーブルへ置く。ガムテープで封をしたところをカッターで切り、開けた。

 

 「おお。やったぜ。さすがばーちゃん」

 段ボール箱の中で一番場所を取っていたのは、おばあちゃん手製のエルバサンタヴァだった。冷凍してある大きな包みが、三個。おばあちゃん直筆の、レシピつきだ。

 そして、おばあちゃん特製のブルーベリー・タルトがひとつ。

 「えるばさんたばだー! ブルーベリー・タルトもある!」

 「あとは焼いて、チーズのせるだけだってよ。……なんだ、チーズは仕上げにのせるのか」

 のせて焼くんじゃないんだな、とアズラエルはレシピを見ながらぶつぶつ言っている。ルナが段ボールをのぞいていると、アズラエルが包みをルナに渡して言った。

 「ルゥ、冷蔵庫いれてきてくれ」

 「うん!」

 ルナは大きな包みを抱え、キッチンへ行き、冷凍庫へ入れた。ルナが戻ると、アズラエルは段ボールからすべての中身を取り出して、段ボールを片付けていた。

 

 「アズ、それはなあに?」

 「ン?」

 アズラエルは、固いカバーの、大判の冊子と、それから小さな小箱をすみに寄せていた。段ボールの中身はそれだけだ。ルナが見せて、と駆け寄ったが、アズラエルは頭上に持ち上げて隠してしまった。

 「これは俺がばあちゃんに頼んだやつ。おまえには見せない。早く買い物行けよ」

 「ええー!? なにそれ! 見せてよ! アズだけずるい!」

 「ダメ。……オラ、早く行け、な?」

 アズラエルがルナの頬にキスをひとつ。

 「キスでごまかされないからね! あとでまた言うからね!」

 「はいはい。早く行け」

 アズラエルに追い出されるようにして、ルナは、買い物に出かけた。

 

 

 「ルナ、――何か忘れてることはない?」

 

 ミシェルと買い物に出た先は、いつものスーパーではなく、K37の南にある商店街だった。K37はルナたちの区画K27の隣。タクシーで行けば三十分と掛からない。ちなみにK37にはスーパーはない。このあたりの区画では、K27にしかスーパーはなく、K27の周囲の区画、K21とK38のひとたちは、K27のスーパーに買い物にくるらしい。

 ルナはちょっと服が見たかったので、いつものスーパーではなく、K37へミシェルを誘ったのだ。この商店街には、流行りの服のショップがある。

ルナとミシェルは、新鮮な果物が置いてある露店で、桃とレモン、ミシェルはマンゴーを買った。野菜も肉も買った。いつものスーパーではなく、たまにはこういった露店もいいものだ。

 服のショップが数軒連なっているところへいき、セクシー系の服を物色していたルナに、突然ミシェルが言ったのだ。

 

 「へ? ――忘れてる、こと?」

 

 ルナは考えたが、思い浮かばない。ミシェルは嘆息し、

「まあ、仕方ないけどね。最近、ルナもいろいろあったしさ。ほら、――キラのこと」

 「あーっ!!」

 ルナは店内ででかい声をだし、店内には二人しか客がいなかったので、ひどく響いた。店員がびっくりしてこっちを見たので、二人は「すみません! 何でもないです」と言って、そそくさと店を出た。

 

 「ルナ、声でかい!」

 「ご、ごめん……! でもマジで忘れてたよ。どうしよう……! リサとも約束してたのに!」

 ナターシャたちを送ったあと、リズンでルナとリサとミシェルは約束したのだ。来週、キラのところへ行くと。ちなみに、その「来週」はとうの昔に過ぎている。

 「ほんとにね。……ルナ、ちょっとあそこのカフェでお茶しない?」

 いろいろ露店を見回って、歩きつかれたところだった。ルナも賛成した。

 

 カフェで、聞いたことのない名の果実――たぶん、L7系にはない、透き通った半透明の果汁のフレッシュジュースを飲みながら、ルナはうなだれた。

 「すーっかり忘れてた……。もうほんとに」

 「ルナ、忘れてるだろうと思ってさ、あたし、リサに電話しといたよ。もうとっくだけどさ。今、ルナもあたしも立て込んでるから、このあいだの約束なしねって」

 「ほんとう!? ありがとう〜〜! 助かったよぅ〜!」

 ルナは、全力でミシェルに感謝した。このジュースぐらい、お礼に自分が奢ってもいい。

 

 「リサも美容師試験受けるんだって。だから忙しくなってきたから、約束キャンセルで助かったって」

 「そ、そうなんだ……」

 リサが美容師試験――そんなこと、全然知らなかった。このあいだ、リズンでミシェルと三人でお茶したきり、会っていない。一緒に宇宙船に乗ったのに、最近は全然会ってないな、とルナはなんとなく寂しい気がした。

 

 「それであたしもさ、キラに電話したんだけど」

 「うん、どうだった?」

 「……う〜ん、わっかんないなあ。やっぱルナと喋った時って、マリッジ・ブルーだったんじゃない? あたしには、普通だったけどね。ただ、最近いろんな集まりに誘ってもらったのに行けなくてごめんねって。懲りずにまた誘ってねって、すっごい言われた」

 「……」

 「ロイドとは喋れなかったけどさ」

 「そうかあ……」

 

 なんだか、キラのところへ行くタイミングをことごとく逃している気がする。ルナはなんとなく、キラが心配なのだが、気にし過ぎなのか。

キラとは、母星にいたころも、小学校、中学校のころはよく遊んでいたけれど、高校のころからは思い出したときに会うくらいで、このくらい疎遠なのが普通だった。

 

 ――やっぱり、気にし過ぎなのかな。

 でも、会いたいなあ。どうしてるかなあ。