「これは――」 「綺麗なものでしょ?」 「ああ――よかった」 思わず、オトゥールは目頭が熱くなった。マルグリットが、生前の美しい姿で残っていた。オトゥールは、五人の友人たちを写真の中から探した。マルグリット、ケイト、カイン――。 オトゥールは、気づいた。 写真の中に、レオンがいないことに。 「エーリヒ叔父、……この写真は十七人だが」 「十七人しかいません」 「……なに?」 「十七人しかいなかったのです。その三列目の車両には」 「まさか――」 「そのまさかです。レオン・G・ドーソンは、この列車が出発するときには乗っています。爆破数分前までね。それは、ステーションの監視カメラが証明しています。一緒に爆発した列車内の監視カメラは復元できませんが、爆破数分まえまでの記録はステーションの監視センターに残っています。監獄星ですからね、監視の目は厳重です。三列目の監視カメラは、爆破数分前に切られていました」 三列目の車両には、レオンの残骸はひとつもなかった。所持品も。こんなことはあり得ない。ダイナマイトの一番近くにいたマルグリットでさえ、こんなにきれいな形で残っているのに。 「この用紙にない死体は、あとは四体分。それは、見張りの刑務官の分。彼らも気の毒でしたな。復元できたのは、この十七人と、刑務官四人分だけ。ドーソンが、L25に手を回したとは考えにくい。科学捜査班は、警備星直轄ですからな。いくらドーソンでも、干渉できない。と、なると、爆破の時刻には、レオンはすでにいなかったと考えた方が、」 「レオンはどこにいったんです!?」 「消息不明――としか、言いようがありません。だがもしかすれば、」 エーリヒは無表情ではあったが、言葉を選ぶようにして、しばし間を置いた。 「もしかすれば、――爆破を決行したのは、レオンかもしれません」 オトゥールの手からグラスが滑り落ちて、絨毯に琥珀色のしみが広がった。 「すべては、推測の域を出ませんがね……」 「セクシー・ビーム!」 昼食を終え――さっきK37で買ってきた服に着替えて現れ、セクシー・ポーズを決めたルナに対し、ミシェルはあまりの悲劇に目を覆い、アズラエルは口をポカン、と開けた。 「どう!? 似合う!?」 そこには、派手なビビットピンク――目に痛い蛍光色――で両肩をすっかり出した、丈の短いワンピース――下着が見えそう――なやつに身を包み、模様の入った派手な黒ストッキングをはき、真っ赤なリップをくっきり唇に塗ったルナがいた。 「………………………セクシーだよ、ルナちゃん!」 クラウドの同情票が一票。彼はさすがにもと心理作戦部だった。内面の動揺を顔に出しはしない。 「ルナ、あんまりだよ。マジで似合わない」 だがミシェルが、クラウドのサービスを台無しにした。 「なんか、芸人みたい」 「芸人!?」 ルナは多大なショックを受けたが、アズラエルが口をぽかんと開けてルナを見ているのを、自分に見惚れているのだと勘違いして気を取り直した。やはりアズラエルは、こういうセクシーな感じが好きなのだ。 ルナはとてとてとアズラエルに寄り、めのまえでセクシーポーズを決めてみた。ウィンクまでしてみた。アズラエルは言葉も出ない。「ああ……ルナ、不憫な子!」ミシェルが顔を覆い、クラウドがひどい顔で笑いを堪えているが、もはやルナは気づかない。 「アズ、せくしー?」 至近距離のルナの言葉で我に返ったアズラエルは、そばにあった布巾で、猛然とルナの顔を拭きにかかった。 ――アズラエルの脳みそは、単にルナのひどい姿を認められず、現実逃避していただけである。 「ひぎゃ! あじゅ、にゃにしゅりゅにょ!」 「おまえはバカか!!」 厚塗りしたファンデーションも、つけまつげも剥がれてしまった。無論、真っ赤な口紅も。 「にゃんにゃにょ〜〜!!」 「コメディ映画にでも出るつもりか!」 ひどい。アズラエルまでルナを芸人扱いした。 アズラエルは、怒っているようだった。ルナは訳が分からず、横暴なアズラエルに抗議した。 「あじゅのばか! せっかくせくしーにしてみたのに!」 「いいかルゥ」 怒りを最大限に押さえている声で、アズラエルはルナの小さな鼻の頭を、長い指で突いた。 「てんで似合わねえ。その化粧も、服もだ」 ルナはつぶらな目を真ん丸に見開き、もう一度叫んだ。「あじゅのばか!」 「いいか――すぐ着替えろ! そんなカッコで外出さねえぞ!」 ルナはブラをつけていなかったので、くっきり、乳首の形も現れている。クラウドとミシェルは、それに気づかなかった。似合う似合わないはともかく、いつもほとんど完全防備のルナが、胸から上の肌を惜しげもなく出している。アズラエルが愛でてやまない、白く滑らかな肌を。アズラエルはムラッときたが、何とかこらえた。なんのために、今まで我慢してきたのか分からない。 「あじゅのばか〜〜〜!!」 ルナは半分涙声で、寝室に戻っていく。 アズラエルは、やれやれと目を覆い、顔を拭って嘆息した。――至近距離のルナの匂いに目がくらみそうになる。本当なら、あんな服を着ることなんて思い浮かばないくらい――首筋と胸元、うなじはキスマークで埋めてやりたい。そうすれば、恥ずかしくてあんな服を着ようなんて思わないだろう。 いったい、なんでいきなりあんな恰好を? ルナのカオスは分かっていたことだったが、今回のはまた理解に苦しむ。 露出度が高いのは賛成するが(自分の前でだけなら)、あれはひどい。セクシーかと何度も聞いてくるから、あれはルナなりのセクシー路線なのだろう。 でも、ひどい。 ひどいが――胸の谷間と、見えそうで見えない下着と、ストッキングの模様の隙間から見えるルナの真白い肌に、生唾を呑みそうになった。 ――欲しい。 「はあ〜あ。あたし止めたんだよ?」 ミシェルが嘆息しつつ席を立ち、自分の皿とルナの皿を流しへ持っていく。 「似合わないって言ったんだけどなあ」 「アズ――獣みたいな目、してるよ?」 クラウドが横で苦笑している。 「旅行中、ルナちゃんを抱き壊さないようにね。……なんといっても、彼女はウサギちゃんなんだから」 アズラエルの分厚い肩をポン、と叩いて部屋を出ていく。いきなりK点を超えかけた欲情を沈めるために、今日何度目かわからない溜息を、アズラエルは吐いた。
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